WEBソリューション課の今門です。
普段の業務の中で、自社のWebサイトや、お客様用のコントロールパネルを開発しているのですが、チームとして、長年次のような悩み(?)を抱えていました。
- さまざまなサイト・書籍でデザインの学習はするものの、我流である感じは抜けない。
- 関連部署との間でデザインを調整する際、どのデザインを採用するかについての判断基準がはっきりしない
- 関連部署との調整に時間をとられる。無駄な議論や手戻りが発生しがち。
ユーザビリティの向上は当然のこととして、同時に社内の開発プロセスもスムーズに流れるようにするため、何らかのデザイン手法を取り入れる必要があると以前から考えていました。
結果、人間中心設計(Human Centered Design=HCD)を取り入れることにしました。
HCDについて
HCDとは
HCD(人間中心設計)とは
- 利用者の特性や利用実態を的確に把握し
- 開発関係者が共有できる要求事項の下、
- 設計による解決策を作成し
- ユーザビリティ評価の連動により、
より有効で使いやすい、満足度の高い商品やサービスを提供するための一連の活動プロセスのことです。
また、このHCDは、ISO9241-210で6つの原則が定義されています。
- ユーザやタスク、環境に対する明確な理解に基づいてデザインする
- 設計や開発の期間を通してユーザー(の視点)を取り込む
- 設計は人間中心的な評価によって駆動され、また洗練される
- プロセスは反復的である
- 設計はユーザエクスペリエンスの全体に焦点をあてる
- 設計チームには多様な専門領域の技能と見方を取り込む
文字通り、人間を中心に据えたものになります。
HCDサイクル
前述したHCDサイクルを図で表すと次のようになります。
4つの活動の前に、HCDを活用したプロセスの計画を立てます。計画とは、プロジェクトの目標を考慮して、HCDサイクルを開発プロセスのどの段階に、どのように導入するかを決めることです。
計画を立てたら、次のとおり4つの活動を行います。
- ①利用状況の把握と明示
- さまざまな調査やインタビューにより、利用者の行動とその背景や要因を理解する
- ②ユーザの要求事項の明確化
- 利用状況を体系的に記述し、満たすべき要件を定義する
- ③ユーザの要求事項を満足させる設計による解決策の作成
- 定義された要件に基づき最適な解決策を生みだす
- ④要求事項に対する設計の評価
- 生み出された成果物のできばえを要求事項に照らして評価し、当初定義した利用者の要求を満たしているかどうかを確認
④にて、要求を満たしていると判断すれば、実装に移行します。
満たしていなければ、その程度に応じて、要求事項の見直しや、解決策の練り直しを行います。
このようにHCDサイクルを回していきます。
コンピタンス
それぞれのプロセスで必要なコンピタンス(専門的な能力や技術など)は次の表のとおりとなります。
コンピタンスに基づいた、4つの活動の手法(サブプロセスと位置付けられます)は次のとおりになります。
- ①利用状況の把握と明示
-
・利用状況の把握
・ 利用状況の調査
・ アンケート (質問紙)
・フィールドワーク
・エスノグラフィ
・ダイアリー法
・インタビュー
- ②ユーザの要求事項の明確化
-
・グランデッドセオリー法
・ペルソナ
・シナリオ法
・品質機能展開
- ③ユーザの要求事項を満足させる設計による解決策の作成
-
・発想法
・パターンランゲージ
・共感的デザイン
・参加型デザイン
・プロトタイピング
- ④要求事項に対する設計の評価
-
・ユーザビリティテスト
・インスペクション法
・心理的尺度
・生理学的手法
・長期的な評価
以上が、 HCDについての概要になります。
HCDを取り入れることで得られるもの
HCDを取り入れることで、ユーザにとって、それからサービス提供側にとっても、大きな効果が得られます。ISO9241-210ではその効果を、7つのメリットとして定義しています。
- ユーザの生産性や組織の作業効率の向上
- 訓練やサポート費用の削減
- アクセシビリティの向上
- ユーザエクスペリアンスの改善
- 不快感やストレスの緩和
- ブランドイメージの向上
- サステイナビリティへの貢献
HCD-Netについて
HCD-Netとは
HCDを学ぶにあたって、ネット上のさまざまな情報を見ていくうちに、ひとつの団体に行き当たりました。
人間中心設計推進機構(以下、HCD-Net)という特定非営利活動法人です。
上記Webサイトにも記載されていますが、HCD-Netの目指す社会は次のとおりです。
人間中心設計推進機構(以下、HCD-Net)は、HCDに関する学際的な知識を集め、産学を超えた人間尊重の英知を束ね、HCD導入に関するさまざまな知識や方法を適切に提供することで、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献します。
具体的には次のような活動をしています。
- 研究活動
-
・HCD/UXDを探求する調査・研究事業の実施、研究発表会/機構誌の刊行
・システム開発に導入する際の効率性や利用質をさらに高める研究
- 教育活動
-
・講演会、セミナー、ワーショップの開催
・HCD/UXDの実践に必要な知識体系の構築・整理
- 広報社会化活動
-
・HCD/UXDの普及・啓発事業
・年間アウォード審査発表
- ビジネス支援
-
・ HCD/UXDに優れた商品/サービスの設計/開発支援
・指標・規格・評価・分析支援
- 認定
-
・専門資格の認定
・HCD/UXDに優れた商品・ウェブ等の認定、検証活動
HCD-Netの豊富な活動内容をサイトで閲覧するにつけ、自社だけでNCDについて学ぶよりも、HCD-Netの中に入っていって、関係者各位に教わり、一緒に学ぶほうが有意義なのではないかという考えに至りました。
よってシナプスも、2024年度よりHCD-Netの賛助会員となっています。
九州でのイベント・セミナーの開催について
HCD-Netによるイベントやセミナーの開催は、やはり首都圏が中心になってしまいます。
あとは、支部を持つ関西や東海での開催になります。
残念ながら、支部もなく賛助会員も少ない九州では、イベント・セミナーの開催はほとんど行われていない状況です。
しかし、首都圏・関西・東海以外へもHCD-Netの活動の幅を広げるということで、九州でもイベント・セミナーを開始すべく、シナプスもお手伝いさせていただくことになりました。
春先には、第1回目のセミナーの案内を告知できるかと思います。
ゆくゆくは、九州支部を立ち上げられるくらいに、盛り上げていけたらと考えているところです。
まとめ
HCDサイクルを理解し、コンピタンスを磨くことで、よりユーザーに寄り添った製品やサービスを提供することができます。
併せて、設計や開発を円滑に進める働きも期待できます。
シナプスではこのHCDを取り入れることによって、よりお客様視点に立ったサービスをスピーディーに展開していくことを第1の目標としています。
そしてゆくゆくは、蓄えたノウハウを鹿児島・九州へ広めていくことを次の目標として掲げたいと考えているところです。