シナプス技術者ブログ

シナプスの技術者公式ブログ。インターネットで、鹿児島の毎日を笑顔にします。

データセンター運用者が耐震についてお話しします

皆さんこんにちは、ネットワーク課の岩元です。 今回は少し趣旨を変えて、エンジニアとしての技術検証の話ではなく、近年世間をざわつかせている災害の1つ「地震」に基づいて「耐震」のことを話したいと思います。

データセンター運用者として

一見エンジニアとは関係していないように思えますが、データセンター運用者にとって、耐震という概念は切り離せないものと思っています。

各サービス事業者でも身近にできる地震対策(什器の固定や、ラックの落下・転倒対策)が見直されている昨今、建物そのものの耐震性能も、その根本にあると感じています。 筆者が以前、建築関係に携わっていたため、事前に知っていることと、新しく調査した内容を含め、本技記事にまとめて参ります。

BCP(事業継続計画)に基づいて考える

BCP(Business Continuity Planning)対策は、地震や落雷、洪水などの災害が発生したとしても、企業にとって重要な事業を継続できるように対策を行うことです。 データセンターは 24時間365日を何年、何十年と、サービスを稼働し続けなければならいため、BCPの観点から災害対策は必須です。 また近年は、データセンターと、オフィスビルを併用している用途も多く、人々の安全も同時に保障しなければならないため、ますます建物の強度も重要なっております。

耐震基準の改訂

実はこれまでの歴史の中で、耐震基準は何度も改訂され続けております。

地震が多発している日本は、建築基準法が世界で最も厳しい国といわれており、 日本に建てられた建物とは、言い換えれば、厳しい基準を満たした信頼性の高い建物ともいえます。

耐震の構造種別

耐震には主に次の種類があります。

  • 耐震構造
    • 目的:地震の揺れに耐えること
    • 技術:建物のバランス検討・部材の補強
  • 制震構造
    • 目的:揺れを低減させること
    • 技術:ダンパーなどの制震装置
  • 免震構造
    • 目的:建物に揺れを伝えないこと
    • 技術:積層ゴムなどの免震装置

耐震について

まずは「耐震構造」についてお話しします。

耐震構造とは、その名の通り建物が地震の揺れに耐えるための構造です。 耐震構造は、だいたい以下の技術・設計目標により耐震性能を上げております。

  • 耐力壁や、強度の高い柱をバランスよく配置されていること
  • シンプルな平面形状であること
  • 剛性の小さい階(層)と、剛性の大きい階(層)との差が小さい
  • 頑丈な基礎・地盤に建てられていること
  • 地震があった後は次の状態であること
    • 中規模の地震時は、少しの損傷までで留まること
    • 大規模な地震を受け、仮に崩壊する場合は、粘り強く壊れること

順番に解説していきます。

耐力壁をバランス良く配置

枠組みを構成する柱と梁(梁:床を支える横部材)のみでは、地震力を受けると簡単に部材に変形・損傷が生じてしまうのはイメージできるかと思います。

耐力壁とは一般的に地震のような水平力に抵抗できる壁のことをいい、鉄骨造ではブレース(いわゆる"すじかい")による補強、鉄筋コンクリート造では壁にコンクリートを埋めて、柱・梁と一体化させたりしています。

では、考え無しに耐力壁を闇雲に配置すればいいのかと聞かれたら、そういうわけにもいきません。 実は耐力壁を配置するバランスも大変重要になっております。 上図は、耐力壁を不均一に局所的に置されている例です。耐力壁の集中している範囲に硬さ(剛性)が偏っておりますが、この状態だと地震時に次のような問題が生じてしまいます。 建物は地震力を受けると、剛性範囲の中心点(剛心)を軸に回転します。建物の重心と、剛心の位置がずれてしまうことで、ねじれ(回転運動)が生じてしまい、変位が大きいところに対して、 損傷・変形が生じてしまいます。

耐震性能の高い建物は、平面全体でなるべく均等になるように耐力壁の配置がなされております。

平面形状はシンプルに計画

建物の全体の形についても重要です。 複雑な形状の建物は、図のような破線部分に応力が集中しやくなります。シンプルな平面形状が耐震性能的には有利になります。 また、形状が複雑な場合は、ジョイント部材を用いて、意図的に構造を切り離す方法もあります。

各階の剛性を均等に

剛性とは硬さのことです。耐力壁が多く設けられている階は剛性は高く、耐力壁が少ない階は剛性が小さいです。 1階が駐車場になっている建物や、中間層にのみ外壁を設けていない階など、剛性の差が大きく異なる建物は、 地震力を受けると小さい剛性を持つ階に応力が集中してしまいます。 駐車場の階では、柱を補強したり、高さ方向にも耐力壁をバランスよく配置することが重要になっております。

頑丈な基礎・地盤の上に建つ

地震に強い建物は、基礎部分がしっかりと設計されています。基礎が弱いと、建物が地盤の揺れに追従できず、 傾いたり倒壊したりするリスクが高まります。 また、地盤の強さも非常に重要です。基礎が頑丈でも地盤が弱ければ、同じく倒壊の危険性が高まります。 軟弱な地盤に建ってしまう場合、上の左図のように頑丈な地盤(支持層とも呼ぶ)まで杭を到達させる方法や、上の右図のように基礎下の周辺を地盤改良を施すことで、耐震性能を向上させることができます。

中地震時の損傷は少なくする

中程度の地震(震度5強程度)を受けた場合では、建物の各部材とも少しの損傷で留まることを目標に耐震構造は設計されております。 BCPに掲げる事業の継続として、地震を受けた場合にもサービスを維持させるために、この要件を満たすように建てられていることが重要です。

なお、中程度の地震でも、何度か繰り返し受けてしまうと、建物の強度は次第に低下していきます。 これを改善するために、後述する「制震」や「免震」の技術を組み合わせることで、耐震性能の高い建物を実現することができます。

大地震時は安全な崩壊へ導く

BCPとしての事業継続の目的とは逸れてしまいますが、次の技術も耐震性能としては重要です。 それは、大地震(震度7程度)を受けて、崩壊する際の安全な壊れ方です。 建物が崩壊する場合、部材が変形しながら粘り強く破壊をする建物は、耐震性能が高いといわれます。この破壊の仕方を靭性破壊と呼びます。 一方で、力を受けても変形はしないが、限界を超えた時に部材が急に破壊することを脆性破壊と呼びます。脆性破壊は人命確保の観点で非常に危険です。

事業の継続は出来ないものの、人間が避難する時間を確保させるために、大地震時に建物が崩壊する場合は、 部材が粘り強く破壊を目指すように設計されます。

耐震性能のまとめ

   耐震性能が高い 耐震性能が低い  
耐力壁の平面配置 バランスが良い 偏りがある
各階ごとの剛性 剛性の差が小さい 剛性の差が大きい
建物の形状 シンプル 複雑な形状
基礎・地盤 頑丈な基礎・地盤(杭基礎や地盤改良) 軟弱地盤・基礎が弱い
中程度の地震 僅かな損傷で留まる 規定を超えた損傷・変形
大規模な地震 粘り強い破壊(靭性破壊) 急激な破壊(脆性破壊)

本来は、上記で挙げた要素以外にも耐震性能を向上させる技術や、考慮すべき事項が他にもあります。 本記事では割愛いたしますが、ご興味のある方は記事最後の参考文献をご参照ください。

制震について

「制震構造」は構造物に意図的な減衰装置(ダンパー等)を設置して地震の揺れを吸収・低減させようとするものです。

パッシブ方式

パッシブ方式というのは、振動の制御作動にエネルギーやコンピュータを必要としないものです。 使えわれるダンパーには以下のような種類があります。

  • 鋼材ダンパー:鋼材の変形能力を利用する
  • 摩擦ダンパー:振動エネルギーを熱エネルギーに変換
  • オイルダンパー:流体の粘性抵抗を利用する

アクティブ方式

アクティブ方式は、制御作動にエネルギーやコンピュータを用いるものです。

主な例では、アクティブマスダンパー方式というものがあります。イメージとしては、私たちが電車で揺られた時に、体を動かしてバランスを保とうとするような機構です。 フロアごとのセンサーが揺れを感知し、コンピュータ制御によって付加質量を移動させ、その反力で揺れを制御させる仕組みです。

免震について

「免震構造」は、基礎位置や、建物の中間階に免震層を設け、免震層より上の上部構造を、地震動の水平力から絶縁させた構造で、建物に地震の揺れを伝えないことを実現させます。

免震の仕組み

免震構造には以下の4つの機能を持っている必要があります。

機能   特徴
支承機能 地震時に建物を支える
絶縁機能 下部構造と切り離し、地震の揺れを伝えにくくする
復元機能 地震で動いた際に、建物を元の位置に戻す
減衰機能 揺れを弱める

免震におけるメインの部材はアイソレータ(支承材)と呼ばれ、アイソレータには支承機能、絶縁機能を有しております。 復元機能を備えた、天然ゴム系アイソレータと、減衰機能のあるダンパーを組み込ませる例もあります。

免震装置は、各部材ごとに有する機能が異なるため、組み合わせて使用するのが一般的です。

データセンター特有の技術

ラックに免震床を採用

一例ですが、図のようにサーバラックを設置しているOAフロア(フリーアクセスフロア)に免震床を採用している事例もあります。 構造体から床を切り離し、地震の動きから絶縁させることで、ラック機器に揺れを伝えないように施工されております。

図は配線空間を支持する二重床から上部を免震させている例ですが、サーバラックと、その直下の床の間に免震装置を設ける事例もあります。

なお、床免震を採用する場合は、ラックの周辺に十分なスペースを確保する必要があります。 床の状態や周囲の可動スペースなど、ご自身の環境にあった耐震性能を持つラックを選定することが何より大切です。

ラックの耐震基準

ラックの耐震基準は、国内基準や国外基準と様々あります。 主な規格として次の3種類があります。

  • NEBS規格
  • NTT耐震規格
  • NTTファシリティーズの耐震試験規格

本ブログでは割愛しますが、以下の記事に各規格ごとの詳細が記載されておりますので紹介します。

日経クロステック xtech.nikkei.com

構造のまとめ

耐震、制震、免震について説明いたしましたが、結論、どの構造種別ともに重要です。 構造の選定基準として、コスト性能の観点が挙げられますが、基本的には、免震構造が3種で最も耐震性が高くコストも高価です。 一方で、耐震構造は3種では耐震性は一番低いですがコストは安価です。

したがって、一番良い構造種別があるわけではなく、上記のようにコストと性能のバランスが重要です。

また、単体の構造(制震構造のみ、免震構造のみ)で成り立っているわけではなく 耐震構造+制震構造や、耐震構造+免震構造と、技術を組み合わせることで 耐震というものは成り立っております。

余談ですが、弊社(シナプスビル)は、耐震構造に制震用のダンパーを併用させた「耐震+制震」で建てられております。

所感

データセンターを既に運用している企業としては、ラックの転倒対策・機材の落下対策などの方がより良い知見が深められると思いますが、 建築的な観点で、耐震建築が、どのような仕組み・考え方で設計されているか、 何となくご理解していただければ幸いです。ご一読頂きありがとうございました。

参考文献

※画像で一部使用した素材元