シナプス技術者ブログ

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通信の秘密

技術部ネットワーク課の二之宮です。

はじめに

ネットワークやサーバーの運用をされている方であれば、何かあればログを見るのが基本中の基本だと思います。

HTTP, SMTP, IMAP, POP3, FTP 等の通信のログや認証関係のログは通信が正常に行われたことや、異常の発生、攻撃的なアクセスの有無などを確認するために無くてはならないものです。

一方で、弊社はインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者として第三者の通信を仲介しており、法令で規定されている「通信の秘密」を守る立場にあります。

ですので、ログを見ることはおろか、ログを記録することそのものについても「通信の秘密」に配慮して、慎重に行う必要があります。

今回は、電気通信事業者に従事する者として、最低限知っておかなければならない「通信の秘密」に関する法令を簡単にまとめてみました。

憲法

日本の法体系の頂点である憲法では、以下のように規定されています。

憲法21条 2項 後段

通信の秘密は、これを侵してはならない。

日本国憲法 | e-Gov法令検索

法律

電気通信事業法

電気通信事業について定めている法律「電気通信事業法」では、以下のように規定されています。

4条 1項

電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。

電気通信事業法 | e-Gov法令検索

有線電気通信法

有線電気通信設備の設置や使用について定めている法律「有線電気通信法」では、以下のように規定されています。

第9条

有線電気通信の秘密は、侵してはならない。

有線電気通信法 | e-Gov法令検索

「通信の秘密を侵さない」とは

「積極的知得行為」と「漏洩行為」を行わないということです。

「積極的知得行為を行わない」とは

通信の内容や通信の存在自体に関する事実を知ろうとしないということです。

「漏洩行為を行わない」とは

職務上知り得た通信に関する情報を漏洩しないということです。

通信の秘密の保護の対象

「通信の秘密」は以下のようなことを対象にしています。

  • 通信の内容
  • 通信にかかわる事実
    送信年月日、送信場所、差出人、受取人、送信数など、通信の内容を推測されかれない事柄。
  • 通信の存在

違法性の阻却

ここまで見てきたように、憲法や法律では、通信の内容はもちろんのこと、通信の存在そのものに至るまで知ろうとしてはならないとされています。

これではログを記録することもできませんので、お客様からメールが届かない等の問い合わせがあっても、何が起きているのか確認することができません。

犯罪と刑罰の関係を定めた法律「刑法」には、違法性を阻却する理由(違法性阻却事由)として「正当行為」「正当防衛」「緊急避難」が定められています。

刑法 第35条(正当行為)

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

刑法 | e-Gov法令検索

刑法 第36条 1項(正当防衛)

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

刑法 | e-Gov法令検索

刑法 第37条(緊急避難)

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。

刑法 | e-Gov法令検索

これらの違法性阻却事由に該当する範囲内で、ログを取得する等の行為が許されることになります。
また、違法性阻却事由に該当しない行為を行う場合は、利用者の同意を得る必要があります。

まとめ

  • 通信は秘密なので、その存在も含め、知ろうとしてはいけない。
  • 業務の中でやむを得ず得た通信に関する情報は漏らしてはいけない。
  • 通信の秘密の侵害が違法にならないのは以下に該当する場合のみ。
    (これらに該当しない行為を行う場合は利用者の同意が必要)

    • 正当な業務による行為
    • 法令に基づいた行為
    • 正当防衛に該当する行為
    • 緊急非難に該当する行為

おわりに

実際の運用の現場では、お客様サポート等でお客様のご期待に応えるために、通信の秘密の保護対象となる情報にアクセスする場面が出てきます。

例えば、一次対応後にほぼ間違いなくお客様から詳細な調査を依頼されるような場面です。

サービスを提供するものとして、お客様の期待にできる限りお応えし、サービス品質を高めたいという欲求から、先回りしてログを詳細にお調べして、お客様にご連絡申し上げたくなりますが、このような場面においては、法令の遵守はもちろんのこと、通信に対する信頼を損ねないように、お客様の同意を得て、お客様の意に反しないことを確認した上で行うことが重要ではないかと思います。

参考文献